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[ギトリスの魔法にかかった夜@上野]

先月某日、東京文化会館大ホールにて催されたコンサートに行ってきました。

チャイコフスキー:弦楽セレナーデ
チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲
チャイコフスキー:交響曲第5番

演奏:キエフ国立フィルハーモニー交響楽団
指揮:ニコライ・ジャジューラ
ヴァイオリン:イヴリー・ギトリス


目的は言うに及ばず名ヴァイオリニスト、ギトリスの演奏です。

・・・

結論から先に言いいますと...「凄い」の一言でした。

一体どう凄いのか。クラシック音楽に興味がある方でないと、ちょっとシンドイかもしれませんが、もし興味がおありでしたらどうぞ読み進めて下さいませ。


* おまけ *

[ギトリスの魔法にかかった夜@上野]_e0011761_035344.jpgここしばらくCDを買い控えていた私ですが、今回は買わなきゃいかんでしょーということで、会場に平積みされているCDを物色。その中から3枚をセレクトし友人達と手分けして購入しました。私が入手したのは、フランクとドビュッシーのヴァイオリン・ソナタ(ギトリスCD初入手!)。自由自在なギトリスの演奏は言うまでもなく、寄り添いながらも静かに存在感をみせるアルゲリッチがまた凄い。なるほどアクの強さゆえ好き嫌いがハッキリ分かれるというのも納得です。いやしかし2人とも凄いな。ちなみにこの演奏は77年のものゆえ録音状態は良く無いのですが、演奏が凄過ぎて全く気になりません。ヴァイオリン・ソナタはあまり聴かない私ですが、これはしばらくヘビーローテとなりそうです。



ウィザードと称され名声を欲しいままにしてきたギトリス。そんな彼も今年で御年87歳(現役最高齢)。果たして如何なるパフォーマンスを見(魅)せてくれるのか。いや、それ以前にまともに弾けるのか!?

1曲目の弦楽セレナーデの演奏が終わった後、絵描き?といった風体の老人が登場。ギトリスだ。生きる伝説は指揮台の付近でしばらくチューニングを行った後、静止。同時に会場が静まる。「お、いよいよか!」。するとギトリス。指揮者に弱音機?を渡し何やらゴニョゴニョと。ん!?なになに?と固唾をのむ聴衆&楽団。と、彼はやおらポケットからハンカチを取り出すとハナをチーン!同時に会場から静かな笑いが。自由奔放とは聞いていたが...のっけからギトリスワールド全開。魅せてくれます。緊張が解け会場が和やかになったところで、今度こそ演奏開始。

さぁどんな演奏が聴けるのか...期待と不安が交錯する中、ギトリスの演奏がスタート。すると...あれ??筋力の衰えからなのかボウイングは不安定(特に引き弓の際に顕著)。調律も上手くいかなかった模様。ギトリスの演奏は、既存の枠に捕われない自由闊達な演奏が特徴。それが故に耳慣れないと違和感を感じこともある。が、今回はそういったレベルの話ではない。もちろん美音も生まれるのだが明らかにピッチが不安定(特に序盤は)。

うーん、流石のギトリスも年齢による衰えには勝てないかぁ。一体ギトリスはどんな思いで演奏しているのだろう。そんな思いを抱きつつ双眼鏡でギトリス老を見てみる。すると...当の本人は、不安な様子を微塵も見せることなく悠々と、ヴァイオリンを愛でるように演奏をしているではないか。私はその姿を見て愕然とした。

一切の気負いもなく楽しそうに弾く姿に、私はヒヤヒヤどころかむしろワクワクさせられた。それはおそらく、彼が「年齢に応じた」ではなく、「若き日のままの」演奏スタイルそのままに、理想に向かってグイグイ弾きまくっていたからに違いない。もし、一瞬でもギトリス本人から迷いや不安のようなものを感じたのならば、痛々しく感じ彼の演奏を見聞きし続ける事が出来なかっただろう。

そうこうしている内に第1楽章が終了。やはり調整が上手くいっていなかったのか、楽章間で再度音合わせをするギトリス。で、演奏が始まると...徐々に調子が上がってきたのか、先ほどよりも美音が連発するように(特に弓を押す時に)。湧いては消え湧いては消えと、決して長くは続かないものの、この世のものとは思えない音色に何度も心が揺さぶられてしまう。この音が聞けただけで満足。それにしてもなんという歌いっぷりだろうか。ジプシーも真っ青という感じで、ふとチャイコの音楽であることを忘れてしまう。そうして曲は終わりを迎えギトリスの出番は終了と相成った。

その後は当然アンコール。先ず1曲目は...なんと今さっき演奏したコンチェルトとな。「そうきたかー!」と思ってると、ギトリスが茶目っ気のある笑顔で皆にこう言い放つ。「さっきよりは、もうちょっと良い演奏が出来ると思うよ」(と言っていたと思われる)。で、演奏を始めると...これが素晴らしいのなんの!いやもう、さっきの演奏はなんだったの?そうツッコミを入れたいくらい。あまりの素晴らしさに思わず息をのんでしまった。ある程度弾いたところで「ま、こんなところかな」という表情を浮かべて演奏をストップするギトリス。くぅ〜っ、爺さん凄過ぎ。次いで弾き始めたのは「 浜辺の歌」。これもまた素晴らしいのなんの。歌うように弾きながら聴衆に一言「知ってるよね」。水を得たさかなの如く、という言葉通り、生き生きと演奏するギトリス。ホント根っからのパフォーマーなんだなーこの人は。ブラボーブラボー。いやー、ウィザードの魔法はかくも凄いものだったとは。いやはや恐れ入りました。

・・・

帰宅後、ネットでこんな記述を見つける。近年リリースされた、パガニーニの「24のカプリッチョ」に寄せられたギトリスのメッセージである。これを読んで、なるほど彼の演奏は揺るぎないわけだと納得した次第(以下抜粋)。

新世代の若き同僚達よ、君たちには、自分自身に成る勇気を持ち、リスクを進んで背負い、自分のまたは他人の録音のコピーになど成り下がらないよう、是非ともお願いしたい。心理的・技術的な制約から脱する為、そして、演奏に於いて創造を成し遂げる為に、努めて楽器に習熟されんことを。君の内なる声に耳を澄ますこと。それは直接に君の心、君の魂につながっている。君が感じていることを伝えるものこそ、君自身なのだ!そう感じないものならば君ではない。覚えていてほしい。クライスラー、ティボー、カザルス、またはカラスらが奏で、歌った「間違っていて」しかも美しい音が、千もの「正しい」音より価値があることを。そして、衛生的に正しい、病院の治療のように正しい演奏が、必ずしも健康の印とは言い難いことを!

いやー熱いなー。素敵すぎです。
by taka-sare | 2009-11-10 00:00 | 音楽・芸能・芸術
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