[祝いと弔いと]

ロストロポービッチ氏死去 世界的なチェロ奏者・指揮者(共同通信)


監督ソクーロフのドキュメンタリー映画「ロストロポーヴィチ80歳記念 『ロストロポーヴィチ 人生の祭典』」が封切りされて一週間も経たずして、スラヴァ(ムスティスラフ・ロストロポーヴィチの愛称)は帰らぬ人となりました。誕生祝賀会が開かれたちょうど一ヶ月後のことでした。

スラヴァは20世紀を代表する名チェリストでした。彼のヒューマニズムに支えられた演奏は、力強く、そして温かさに溢れていました。中でもテレビで放映された”あの演奏”は、彼らしさが表れた最たるものだったと思います。私は、あの日のことを一生忘れることはないでしょう。

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”あの演奏”が行われたのは、阪神・淡路大震災のあった数日後のことだった。

それは、NHK交響楽団と20年以上絶縁状態にあった小沢征爾が、その関係を修復?し行ったチャリティーコンサートだった。大震災直後ゆえ中止になるかと思われたが、コンサートは予定通りに行われた。スラヴァは、ソリストとしてこのコンサートに参加していた(小澤征爾とは深い絆で結ばれていた)。彼はドボルザークのチェロコンチェルトを弾き終えると、観客に向かって静かにこう語り出した(確か小澤征爾が同時通訳をしていた)。

「今、無くなった5000人の方々のことを考えなくてはいけません。私のお祈りとしてこの曲を弾かせていただきたいと思います。演奏を終わってもどうか拍手をしないで下さい。このホールから我々のお祈りが届くことでしょう。」

そう言うと彼は、J.S.BACHの「無伴奏チェロ組曲第5番 サラバンド」を演奏し始めた。これが凄かった。彼の奏でる一音一音。それはまさに「祈り」だった。私はあまりの衝撃にテレビの前で動けなくなった。

演奏が終わると、観客と楽団員は黙祷。暫くした後、静かに会場を後にした。
気が付くと、私の両の目からは涙がこぼれ落ちていた。
チェロの演奏を聞いて涙したのは、カザルスの弾く「鳥の歌」を聴いて以来のことだった。

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4月28日、先述の映画を見に行きました。
その際購入したパンフレットに、次のような記述がありました。

e0011761_1553766.jpgロストロポーヴィチは「良心が、芸術活動への驚くべき力となるのです」と述べている。ロシアの作家ソフィア・ヘントヴァは、スラヴァの辛かった時代を振り返り、断言するかのように次のように書いている。「もし保身や妥協により自分の良心を冒涜していたとすれば、スラヴァの演奏は酷くなっていただろうし、人々の気持ちをとらえたり、力を強めることも出来なかっただろう」と(「ロストロポーヴィチ〜チェロを抱えた平和の闘士」新読書社)。



あの日の演奏は、まさにその力が最大限に発揮されたものだったと思います。

無伴奏チェロ組曲は大好きな曲ゆえ、これまで何度となく耳にしていますが、あの日以降スラヴァの演奏を聞くことはありませんでした(普段はビルスマ演奏のCDを聴いています)。そこで、今日は久し振りにスラヴァの演奏を聴くことにしました。暫くすると”あの”サラバンドが流れました。あの日のスラヴァの演奏が、そして震災のことが昨日のことのように思い出され、思わず目頭が熱くなりました。
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by taka-sare | 2007-05-06 23:57 | ニュースを読んで | Comments(0)
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